140人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
でも、一体だれが…?
―――――と、そのとき。
教室の扉が、唐突に「ガラリ」と開いた。
視線を向けると、そこには見覚えのある男子生徒が一人、こちらの様子を伺うように立っていた。
艶のある黒髪に、大人しそうな表情。
背はあまり高くなく、私と同じくらいだろうか?
自分に言えたことではないが、正直目立たないタイプの人間。
確か、名前は………
「……ええと…紺野、君?」
そうだ、紺野直之とかいう名前だ。
「あ、うん。名前、覚えてくれてたんだ九重さん」
私の呼びかけに、紺野君は穏やかな、しかしやや緊張した笑みを浮かべた。
…なんだか、久しぶりに他人と会話を交わした気がする。
「…私に、なにか用?」
「え…あ、うん」
廊下や教室内に、キョロキョロと視線を走らせながら、緊張気味に答える紺野君。
少々挙動不審ではあるが、別に私を嫌っている様子ではない。
どちらかと言えば、クラスの嫌われ者と会話しているところを他人に見られたくない……そんな感じだ。
いや、実際そうなんだろう。
周囲に誰もいないことを確認すると、落ち着きのない足取りで、こちらへ近づいてきた。
「ひどいね…」
落書きだらけの机に視線を落としながら、他人事のように呟く。
まあ実際他人事だから、仕方なくはあるんだけど。
「…ふぅん。同情してくれるんだ?」
「え?」
「いや、クラス集団で私をシカトしてたから、てっきり紺野君も私を嫌ってたんじゃないか、って。気にしてくれるんだ?」
「あ…その、ごめん……」
申し訳なさそうに、頭を下げる紺野君。
ちょっと意外。
「いいよ、別に。自分だけみんなと違う態度とるのはできないだろうし。で、何か用事?」
…少しばかり、トゲのある言い方になってしまった。
だが、気にしていないのか気づいていないのか、特に意に介した様子もなく頷く。
最初のコメントを投稿しよう!