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「うん、その………こんなこと、知りたくないかもしれないんだけど」
床を見つめながら話す紺野君。
何やら、随分とお悩みらしい。
「…とりあえず話してみれば?私と一緒にいるトコ、他の人に見られたくないなら」
「え、い、いや…そんなことは…」
慌てて否定する彼。
図星らしい…というか、分かりやす過ぎ。
「別に誤魔化さなくていいから、早いとこ本題に入って。…ああもちろん、紺野君から聞いたなんて言わないから」
「…………。うん……じゃあ、落ち着いて聞いて欲しいんだけど…」
その約束に安心したのか。
彼はホッと胸を撫で下ろし、数秒の間、躊躇うように何度か口の開け閉めを繰り返した後、何故か私を気遣うような目でこちらを見つめ、
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
「………は?」
一瞬。
告げられた言葉の意味が、理解できなかった。
「う、うそ、なに言ってんの?そんなことあるわけ…」
だが、彼は首を左右に振る。
「本当だよ…。僕、見ちゃったんだ」
私を哀れむ紺野君の瞳は、決して嘘をついていなかった。そして何より、彼自身が非常に辛い表情をしているのがその証拠。
だが―――
「…そん、な………だって、なんで?」
信じたくなかった。
否定したかった。
何かの間違いだと、叫びたかった。
そんなことはあり得ないと、笑い飛ばしたかった。
「…九重さんに教えるべきか、僕も迷ってたんだ。…でも………もう、黙って見てられなくて…」
そう続けながら、再び机の落書きへ視線を落とす紺野君。
この嫌がらせだけではなく、他の行為も指しているのだろう。
そんな風に私を気遣う彼の配慮が、それが真実であることを物語っていた。
「……昨日、たまたま忘れ物を取りに戻ったら、丁度現場を―――――」
「嘘っ!」
無理やり彼の話を遮る。
嘘だ!
嘘だ!
嘘だ!
だって、そんなのおかしいじゃない!
踵を返しながら雑巾を放り捨て、私は教室を飛び出した。
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