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きっと来ない。来るはずがない。
ほとんど願望に近い感情を抱きながら、私は昇降口の柱の陰で息を潜めている。
とっさに此処へ向かったのはいいが、落ち着いて考えてみれば、人目の多い時間帯には実行しないだろうという結論に行き着いたわけだ。
因みに沢口先輩には、予め『病院に行くので早退します』とメールを送っておいた。
またあのような電話をされてはたまったものではない。
文句を聞いた瞬間、ケータイを真っ二つに叩き折る可能性を否めない。
時刻は既に6時半を回っていた。
秋ももう終わりに近づいたこの時期、日はとうに沈み、外には真っ暗な闇が広がっている。
部活のある生徒の最終下校時刻は6時15分。
全ての生徒が帰宅したグラウンドは、完全な静寂に包まれていた。
『―――――――が、九重さんのげた箱に何かを詰め込んでたんだ。教科書や体操服の悪戯も、―――――――――――だよ』
思い出される紺野君の言葉を振り払う。
「やっぱり、そんなわけなかったじゃない」
…そうだ。きっと紺野君は何かを見間違えただけなんだ。
もう校舎内に残っている生徒はいないだろう。
ここまでずっと見張っていたが、――――は一度たりとも姿を見せていない。
いい加減、引き上げてもいい頃合いだ。
「ふぅ…」
何も起こらなかった事に安心し、早いところ家に帰ろうと、私は思い始め……
―――――こつ、こつ。
「…!」
誰かが、昇降口に入ってくる音を聞いた。
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