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私の住む矛路(ほころ)市は、特別発展している…という程でもなく、大体田舎と都会の中間、そのくらいだろう、まあ要するに普通の町だ。
隣町の十並市とは、広大な弥生大橋によって繋がっており、こちらに比べて随分開発の進んだそちらへ、仕事や遊びなどに赴く人々は多い。
かく言う私も、その一人。
「……澪。毎度の事ながらアンタ、どんだけ食べる気なのよ…?」
妙なメニューと可愛いウェイトレスで有名なファミレス『blood』にて、私は呟く。
「むぽ?はんわいっは?」
リスがおたふく風邪に掛かったと思わせるように頬を膨らませながら、僅かに反応を示す澪。
首を傾げるのに合わせて、子供っぽく左右に結った髪がサラリと揺れる。
目の前にある『ゴーヤナポリタン』を必死の形相で詰め込む少女の姿に、私は累計百万は越えるであろう溜め息を吐いた。
先ほど私がプールに突き落としたこの女の名は矢野澪(やの みお)。
小柄で幼い外見とは裏腹に、見ての通り暴食ヤロウ。
元祖デ●やの●塚も大目玉を食らうこと間違いなし。
ツインテールのせいで余計ガキに見えるが、生意気にも私より胸がデカい。
(きっと、身長の養分が全部おっぱいへ向かっているに違いない)
「んぐ、ぷぁ。そんなココアばかり飲んでっから、いつまでもツルペタなのですわよ紅葉さん?もっと金にものを言わせて貪り食うがいいわ、おほほほ…」
「黙れエセセレブ、パンがないなら野菜を食べなさい。ココアは美味しいからいいのよ」
この世にココアに勝るモノは存在しないのだ。
私の概念では。
「てゆうか、結局のところ……体重?」
「…真実は常に闇の中……」
「真実なんじゃん!」
律儀にツッコむのは結構だが、口からゴーヤの欠片を飛ばすのはご遠慮願いたい。
…まあ、いつもこんな感じで絡む澪だが、その実、私は彼女に相当感謝している事がある。
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