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走った。
走って走って走って走って。
何かから逃れるように、宛もなく走り続けて。
気づくと、あの公園のベンチに座り込み、私は嗚咽を漏らしていた。
「…うく……ぅ、ひっ、……ぅぅ…」
誰もいない公園で、私は泣く。
もう堪えることはできなかった。
負けてはいけないと、屈しては駄目だと、無理矢理自分に言い聞かせた。
辛い感情を押し殺して、なんとか耐えてきた。
けれど、それももう限界だった。
必死に抑えつけていた感情が、悲しみの奔流となって迸る。
溢れる涙が頬を伝い、地面に零れ落ちていく。
「………ひぐっ…もう…、……や…だ…ぅぅ…ぅ…」
壊れてしまった、私の日常。
何故……どうしてこんな事になってしまったのだろう?
沢口先輩を受け入れた、私がいけなかったの?
全部、私の責任?
……もうイヤ、何も考えたくない…。
駄々をこねる子どものように、私はひたすら泣き続けた。
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どれくらいの間、そうしていたのだろう。
俯いていた顔を上げると、人気のない公園は茜色に染まり、太陽は夕焼けの向こうに沈もうとしていた。
何となく、頭上を見上げる。
そこには、相変わらず綺麗な紅葉があった。
以前よりもかなり色褪せ、恐らくあと数日の間には散り始めてしまうだろう。
ほとんど、枯れ葉に近いかもしれない。
それでも私の目には、相変わらず美しいままの姿として映っていた。
「は、はは……。何度見てもやっぱり綺麗だよね…アナタは。ホント、私とは大違い…」
私は絶対、あんな綺麗にはなれない。
それに、独りぼっちだ。
去年は、澪と一緒にこの紅葉を眺めたこともあったけれど、その友人は、もう友人ではなくなってしまった。
一緒に枯れ葉として散る……、仲間がいる彼らと違って、私には一人の味方もいない。
もう何度も思ったけれど。同じ紅葉と紅葉で、どうしてこんなにも違うんだろうね…?
ずっと座っていたおかげで、手だけでなく体中が冷えきっている。
とても寒かった。
そしてその冷たさが、私にいっそう孤独感を与える。
込み上げてくる涙に瞳が潤む。
また泣き出しそうになり、私は両手に顔を埋め―――
「はい」
唐突に降ってきた声と、差し出されたココアの缶に、目を見開いた。
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