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「え…」
顔を上げると、そこには見覚えのある男子が…………澪の犯行を私に教えてくれた、紺野直之の姿があった。
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紺野君が渡してくれた缶は、熱々のホットだった。
蓋を開けてココアを啜ると、私の大好きな甘い味が広がり、冷たい孤独感を、ほんの少しだけ溶かしてくれた気がした。
体中が、芯から温まっていく。
「九重さん、ココア好きだって聞いたからさ」
紺野君はそう呟きながら、私の隣に腰を下ろす。
微妙に間を空けて座る遠慮がちな態度が、何とも彼らしい。
私はありがとうとお礼を告げようとして―――
「……どうして私に、構ってくれるの…?」
ふと、頭に思い浮かんだ疑問を口にしていた。
素直に礼を言うべきなのかもしれないが、今の私にはそれができなかった。
「え?」
「だって……普通、あんな風にクラス中から嫌われている生徒を、気遣ったりはしないでしょ…?」
そうだ。
それにもし、仮に虐められているのが私でなかった場合、ソイツを無視するというクラスの暗黙の了解に逆らってまで、助けようとは思わない。
私だって、シカトした連中と同じ態度をとるだろう。たとえ罪悪感があったとしても。
だから紺野君の好意は、嬉しくはあるものの不可解だった。
しかし、彼はごく自然に、
「ん…別に大した理由なんてないんだ。ただ、九重さんすごく辛そうだったから……少しでも楽になれたらいいな、って。それだけだよ」
当たり前のように、そう告げた。
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