🍁ユイイツノミカタ🍁

5/11
前へ
/131ページ
次へ
「え…」 顔を上げると、そこには見覚えのある男子が…………澪の犯行を私に教えてくれた、紺野直之の姿があった。 ▼ 紺野君が渡してくれた缶は、熱々のホットだった。 蓋を開けてココアを啜ると、私の大好きな甘い味が広がり、冷たい孤独感を、ほんの少しだけ溶かしてくれた気がした。 体中が、芯から温まっていく。 「九重さん、ココア好きだって聞いたからさ」 紺野君はそう呟きながら、私の隣に腰を下ろす。 微妙に間を空けて座る遠慮がちな態度が、何とも彼らしい。 私はありがとうとお礼を告げようとして――― 「……どうして私に、構ってくれるの…?」 ふと、頭に思い浮かんだ疑問を口にしていた。 素直に礼を言うべきなのかもしれないが、今の私にはそれができなかった。 「え?」 「だって……普通、あんな風にクラス中から嫌われている生徒を、気遣ったりはしないでしょ…?」 そうだ。 それにもし、仮に虐められているのが私でなかった場合、ソイツを無視するというクラスの暗黙の了解に逆らってまで、助けようとは思わない。 私だって、シカトした連中と同じ態度をとるだろう。たとえ罪悪感があったとしても。 だから紺野君の好意は、嬉しくはあるものの不可解だった。 しかし、彼はごく自然に、 「ん…別に大した理由なんてないんだ。ただ、九重さんすごく辛そうだったから……少しでも楽になれたらいいな、って。それだけだよ」 当たり前のように、そう告げた。
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

140人が本棚に入れています
本棚に追加