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「…あ、れ……?」
いつの間にか瞳からは涙が溢れ、零れ落ちた滴がスカートに染みを作っていた。
悲しくなんかない。
では、これが嬉し涙というヤツだろうか?
…よく解らない。
よく解らないが……多分、そういうことなのだろう。
「…九重さん?」
心配そうに、私の顔を覗き込んでくる紺野君。
改めてよく観察してみると、とても優しい目をしていた。
穏やかそうな表情に、困惑の色を浮かべている。
それが…、私の心に安堵を齎した。
「…ご、ゴメン……なんか、ホッとちゃって……そしたら、涙が勝手に……」
そう、私は安心していた。
澪や佐藤たちに執拗な嫌がらせを受け、クラス全員に無視され、挙げ句の果てに教室にいることすら許されなくなった私。
精神的に限界の来ていた私は、遂に自身を支えていた何かが失われ、そのまま崩壊しそうになっていた。
あのままだと、本当に自殺していたかもしれない。
でも彼は……、紺野君は、そんな私を繋ぎ止めてくれた。
とても些細な、小さな好意。
彼自身、特別意図してのことではないのだろう。
ほんの僅かな好意を、些細な行動に移しただけ。でも結果的に、疲れ果て壊れそうになった私へ、紺野君は手を差し伸べてくれた。
私の支えになってくれたのだ。
「……九重さん…その、…うまく、言えないんだけど、さ」
―――と。
紺野君はしどろもどろになりながらも、懸命に、
「……泣きたかったら…、我慢せずに泣いてもいいんだよ?」
優しい口調で、そう言ってくれた。
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