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元々、私は人と接するのが苦手……それに違いはないのだが、もう少し正確に言うならば、それは若干異なる。
別に一対一や数人での会話なら、これといって問題ないのだ。
…困るのは、それ以上の数が集まった場合。
球技大会や体育祭、修学旅行など、大勢の人間と関わり合いになる行事。
昔から、周囲の空気に合わせるのが苦手な私にとって、それらはただの苦痛でしかない。
文化祭など、もってのほかだ。
そのおかげで、中学ではクラス内で浮きまくってしまい、友達もいなかった。
別にイジメや集団シカトを受けたわけではないし、一人でいるのは割と好きなので平気だったが、それでも一抹の寂しさを覚えた。
高校へ進学しても、どうせそんな日々が続くのだろう……そう思っていた。
しかし、そんな不安は目の前の少女が打ち砕いてくれた。
何がきっかけで仲良くなったのかは覚えていないが、最初はほんの些細な会話だった気がする。
席が隣だったのも、あるのかもしれない。
ただ、澪は一人ぼっちでいた私に対する気遣いからではなく、自然な気持ちで接してくれた。
それが何だか心地良くて、いつの間にか随分親しくなっていた。
水泳部に誘ってくれたのも澪で、彼女なしでは沢口先輩との出会いはなかっただろう。
少なくとも、あそこまで会話できる関係にはなれなかった。
更に部活を通して、多少ではあるが、周囲の空気に溶け込めるようになった。
そして何より、先ほどのような何の他愛もない会話が、私にとっては嬉しい。
何の気遣いもなく、自然に話せる友人。
少しは改善されたとは言え、未だに他人と会話を避けがちになってしまう私。
そんな自分に対して、他にも大勢の友人がいるにも拘わらず、「紅葉といると楽しいから」と、いつも一緒にいてくれる澪。
そんな彼女の存在は、私にとってとても有り難いものだった。
…アンタがいてくれて良かったわ、澪。
口には出さず内心で呟きながら、丁度『ゴーヤナポリタン』を食べ終えた少女を見やり―――
「さて。お会計6400円、澪ちゃんの全財産は5000円ジャスト!頼りにしてますぜ、マイベストフレンド♪」
前言撤回。
辞書のごとく分厚いメニュー表で、ツインテールの頭を殴りつけた。
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