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紺野君との一件から十日が経過した。
周囲を取り巻く環境に大きな変化は見られないけれど、それでも私は幸せだった。
虐めることに飽きたのか、それとも佐藤に暴行を加えた私に恐れをなしたのか。
どちらにせよ、イジメの内容が以前よりもマシになっているような気がする。
もっとも、クラスメートたちによる集団シカトや、澪による直接的な嫌がらせは……、止まないままだったけれど。
それでも、見えないところでさり気なく助けてくれる彼のおかげで。
どんなに辛くても、私の味方でいると言ってくれた紺野君の存在があったから。
たから、どんな嫌がらせを受けても耐えることができた。
放課後になれば、他の生徒たちが下校するのを何食わぬ顔で待ち、人気がなくなった頃合いを見計らって、二人で手を繋ぎながら一緒に帰る。
やはり控えめな彼は、自分からあまり喋ろうとはせず、かく言う私もこちらから話題を振るタイプの人間ではないので、自然と会話は少なくなる。
だが決して気まずいという訳ではなく、二人で色々な店を渡り歩くのは楽しかった。
CDショップや書店を適当に冷やかしたり、なんとなく喫茶店でくつろいだり。
無くしてしまった、私の日常。
何よりも求めていた、大切な日常。
かつて澪と過ごした、もう二度と戻ってこないと思っていた日々を、私は再び手にする事ができた。
隣にいるのが澪じゃないのは、正直言って寂しい。
でも、それはもう叶わない願いだし、紺野君と一緒にいるときだって、それには劣らない楽しさを与えてもらっている。
それに、沢口先輩のように、自分の考えた場所を好き勝手に連れまわすのではなく、常に私の意思を尊重し、しっかりと意見を聞き入れてくれるのだ。
母以外に誉められたことのないこの栗色の髪を「綺麗だね」と言ってくれたときは、本当に嬉しかった。
休日には十並市の市街地に赴き、疲れ果ててフラフラになるほど遊んだ。
本来嫌いな筈の人混みも、ほとんど気にならなかった。
彼の家は父子家庭で、普段は自宅に誰もおらず、それを良いことに彼の家へ何度も上がり込んでいた。
二人で夕飯を食べたり、どうでもいい雑談をダラダラと交わしたり、ベッドの上で身体を重ねたり。
こんなに満たされた気持ちになったのは、生涯でただの一度もなかったかもしれない。
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