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結局、私の財布の中からは、千円札と小銭が数枚姿を消した。
澪のバイト代が入るまで、彼等が帰還することはないだろう。
予想外の出費に涙しながら、私は自宅の玄関のドアをくぐった。
中に入ると、そこそこ広い玄関の照明と、ほんわり漂うカレーの香り、そしてパタパタという慌ただしい足音が、私を出迎えた。
廊下の角から、小さな男の子がひょこっと現れる。
「お帰り!カレーだよ、今日の夕飯、僕とねーちゃんの大好きなカレーなんだよ!」
まん丸な目をキラキラ輝かせるこの子は隆(りゅう)。
今年で九才になる私の弟だ。
お坊ちゃんヘアーが何ともよく似合う、それなりに純粋無垢な性格である。
「ハイハイ、匂いで分かるわよ…。丁度できたのかしら?」
「うん!お母さんのお手伝いでスプーン出してた!えらい?僕えらい?」
「ええ、とってもいい子だわ」
「やったぁ!!」
「じゃあ、いい子はお姉ちゃんの鞄を、部屋まで運んであげないといけないわよね?」
「やっだぁ!!」
差し出された鞄を無視し、リビングへ駆け出す隆。
誘導作戦失敗。
軽く舌打ちしながらも靴を脱ぎ捨て、一先ず鞄を置くために階段へ足をかける。
一応、私の家はそれなりに大きな一軒家で、私も隆も自分の部屋を持つことができている。
ただ、三人家族が暮らすには、些か広すぎて掃除が面倒ではあるが。
ヒンヤリした階段を上りきり、自室のドアを開ける。
電気が消えているせいで、室内は闇に包まれていたが、いちいち明かりをつけるのも面倒だ。
澪との食事ではココアを二杯飲んだだけなので、すっかり腹ペコ。
早くカレーを摂取せねばならない。
私は適当に鞄を放り入れ、急ぎ足で一階へ向かった。
背後で、何か大量の物が雪崩を起こす轟音が聞こえたのは、空耳であると信じておこう。
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