🍁告白🍁

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▼ 結局、私の財布の中からは、千円札と小銭が数枚姿を消した。 澪のバイト代が入るまで、彼等が帰還することはないだろう。 予想外の出費に涙しながら、私は自宅の玄関のドアをくぐった。 中に入ると、そこそこ広い玄関の照明と、ほんわり漂うカレーの香り、そしてパタパタという慌ただしい足音が、私を出迎えた。 廊下の角から、小さな男の子がひょこっと現れる。 「お帰り!カレーだよ、今日の夕飯、僕とねーちゃんの大好きなカレーなんだよ!」 まん丸な目をキラキラ輝かせるこの子は隆(りゅう)。 今年で九才になる私の弟だ。 お坊ちゃんヘアーが何ともよく似合う、それなりに純粋無垢な性格である。 「ハイハイ、匂いで分かるわよ…。丁度できたのかしら?」 「うん!お母さんのお手伝いでスプーン出してた!えらい?僕えらい?」 「ええ、とってもいい子だわ」 「やったぁ!!」 「じゃあ、いい子はお姉ちゃんの鞄を、部屋まで運んであげないといけないわよね?」 「やっだぁ!!」 差し出された鞄を無視し、リビングへ駆け出す隆。 誘導作戦失敗。 軽く舌打ちしながらも靴を脱ぎ捨て、一先ず鞄を置くために階段へ足をかける。 一応、私の家はそれなりに大きな一軒家で、私も隆も自分の部屋を持つことができている。 ただ、三人家族が暮らすには、些か広すぎて掃除が面倒ではあるが。 ヒンヤリした階段を上りきり、自室のドアを開ける。 電気が消えているせいで、室内は闇に包まれていたが、いちいち明かりをつけるのも面倒だ。 澪との食事ではココアを二杯飲んだだけなので、すっかり腹ペコ。 早くカレーを摂取せねばならない。 私は適当に鞄を放り入れ、急ぎ足で一階へ向かった。 背後で、何か大量の物が雪崩を起こす轟音が聞こえたのは、空耳であると信じておこう。
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