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「でね、でね、今日はクラスのみんなで、『マイちゃん』って女の子のお墓参りに行ってきたんだよ!お花持ってってあげたんだぁ~」
「そう…優しいのね、隆くんは」
「うんー!」
夕飯のカレーを口に運びながら、弟と母の微笑ましい光景に目を細める。
無邪気に話す隆と、それを嬉しそうに聞き入るお母さんの“家族全員”で囲む食卓。
そう、私の家は母子家庭なのである。
丁度今から一年前に、父は何の前触れもなく失踪してしまったのだ。
ただ、相当な額の詰め込まれた父の預金通帳が、テーブルの上に「ポツン」と寂しく残されていただけ。
警察にも連絡はしたのだが、結局父の行方もその意図も、未だに謎に包まれたままである。
まあ何考えてるのかよく分からない人だったし、ちゃんと多額の生活費を残してくれたのだから、別に文句はないんだけどね。
「コラ隆くん?ニンジンだけ残しちゃダメでしょ~?」
「やだ!こんなお馬さんのエサなんて食べない!」
当初は落ち込んでいた母と弟も、今やこんな風に以前と変わらぬ生活を送れている。
父の帰りを諦めたのか、はたまた心のどこかで願っているのか。
その内心は定かではないが、少なくとも今の母達を見る限りでは、そのような不安は皆無だ。
最近では再婚についても、ぼちぼち考えているらしい。
生活に関しては困っていないのでどちらでも構わないが、母の好きにすればいいと思う。
「ニンジン食べたら、お馬さんみたく足が速くなるわよ~?」
「水泳の方が好きー!ねーちゃんカッコイいんだもん!」
この幸せな光景が、これからも守られていくのなら…。
心地よい温かさに満たされながら、ほかほかのカレーをまた一つ、私は口に含むのだった…。
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