月と夜の鎮魂歌(オープニング)

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 物語はその20年後から大きく動き始める。 ……それは、一つの歌声から始まった…… Opening side Misiro 月下の少女  年明けの冬の寒空の中、天野 深代(アマノ ミシロ)はブラスバンド部の練習で遅くなっていた。綺麗な満月の光が降り注ぐ中、小走りに家路を急いでいた。 「今日は綺麗な満月だなぁ……」  そんな事を思っていると、公園の方から綺麗な歌声が聞こえてきた。 「誰かが歌の練習でもしてるのかな? 行ってみよう」  公園の中に入ってみると、そこにはこの時期に似合わない黒いワンピースを着た少女一人、公園のベンチに座りながら歌っていた。深代は少女と目が合ってしまった。 「……私に何か御用ですか?」  歌うのを止めて笑顔で深代に問いかけた。 「いえ、綺麗な歌声が聞こえたもんですから……」  慌てて返事をする深代。 「ありがとうございます」  嬉しそうに答える少女。 「……何の歌だったんですか? あれ、ちょっと聴かない歌だっんで……」 「私もよく知らないんです……」 「え、知らない?」 「姉が昔よく歌っていたものですから……もしお急ぎでないなら、少し私とお話ししませんか?」 「あ、ちょっと待ってください。うちに連絡入れるんで」  そう言って深代は携帯電話を取り出し、兄の薫(カオル)に電話をした。
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