第一夜 そぼ降る雨にうたれて

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長い通路を通って厨房に足を踏み入れる。そうして簡単な朝食をこしらえ、いつものように一人で作ったそれを平らげ、片付けた。この一連の作業を終えて、ようやく彩女は本日の予定に向けて行動を開始する。   忌夢の柱が壊れ、人間の住む現世に幽世が侵食し始めた今、彼女には重大な役目が発生している。飛び散った忌夢の柱の欠片を集め、異形共を幽世に追い返す。それは代々忌夢の守護者の家系である神楽家に生まれた者の定めである。 朝食を終えた彼女は自室に戻り、右手に白く輝く指輪をはめた。きらびやかな光を放つこの指輪こそが、彼女の最大の武器にして、幽世の異形への唯一の対抗手段となる。封神器と呼ばれるその指輪は守護者専用の道具である。使用者の妖力に反応して様々な力を操ることができ、時には刃向かう者を葬り去り、ある時は守護者を宙に舞い上がらせる。彩女が空を飛ぶ飛妖と渡り合えるのも、この封神器「光魔玉」の力によるものであった。   一通りの準備を終えた彩女は屋敷から一歩外に出て、丘の上から辺りを見回した。ほどなくして、富士見市の一角に忌夢の欠片の放つ妖気を感じ取る。 異形の動き出す夜になる前に、しかもこんなに近くに欠片を発見できたのは非常に幸先が良い。彩女は静かに舞い上がり、妖気の発信源へ向かって飛び立った。
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