第一夜 そぼ降る雨にうたれて

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二節   数分ほどして彩女がたどり着いたのは、富士見市の町外れ。高いビルに日差しを妨げられた廃ビル群だった。今は使われていないため人間が訪れることもなく、この辺り一帯を囲むように存在する瓦礫によって陸の孤島と化したこの場所は、陽の光を嫌う異形が隠れ棲むには絶好の場所といえよう。彩女は眼前に広がる荒廃した廃ビル群を見やって、わずかに目を細めた。   「……あれか」   彼女が目を付けたのはビル群の中でも一際大きな廃墟。どうも欠片はあの中にあるらしい。周囲から感じる殺意を気にも留めず、彩女は目的地に向かって歩き出した。 生きた餌の登場にいてもたってもいられなくなった飛妖たちが一斉に瓦礫の陰から少女に襲いかかったが、彩女はその急襲を右手から発する光弾で薙払い、何事もなかったかのように歩を進める。後に残ったのは血気にはやった愚か者たちの骸のみ。飛び出し遅れて難を逃れた飛妖たちが、物陰からその光景を目の当たりにして震え上がっていたのは、言うまでもない。
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