第一夜 そぼ降る雨にうたれて

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三節   「嫌な空気だな」   ビルに踏み入った瞬間、凄まじい異臭が鼻を突く。思わず顔を伏せたくなる衝動に耐えて、彩女は探索を開始した。 廃ビル内は長い歳月によって足場や支柱の腐食が激しく、所々に崩落の生々しい痕跡が残されている。階段を上る際にも足場を踏み抜かないように気を付けなければならないほど老朽化が進んでいた。そのくせ薄暗いビル内の中に充満する腐敗臭。上階に上がるにつれて強まる異臭に眉をしかめながらも、彼女は欠片の気配をたどっていった。   どれくらいの時間が経っただろうか? 窓をから外を見て、陽が暮れ始めていた事に気づく。どうやら欠片の放つ強い妖気が、ビル内の時間軸を狂わせているらしい。雨まで降り始めている。急がねば。夜の光は異形共を活発にしてしまう。面倒になる前に欠片を見つけたいところだ。そんなことを考えているうちに、いつの間にか彩女は開けた部屋に出た。室内に明かりはなく、完全な闇によってもたらされる静寂が支配している。そして、彼女の探す物がそこにあった。
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