第一夜 そぼ降る雨にうたれて

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「!」   暗闇の奥で怪しく煌めいているのは間違いようもなく、忌夢の欠片。強い輝きを放つその光に向けて彩女は暗闇に踏み入った。……しかし、そう簡単に事が運ばないことを、彼女は知っていた。 暗闇の向こうから飛びかかる無数の異形を余裕をもってかわし、あらかじめ用意していたカンテラに火をつける。   「なるほど。この悪臭の発生源はお前たちか」   うんざりした顔で、彩女は目の前に姿を現した異形の群れに向き直った。彼女の前に現れたのは腐敗した身体を引きずった異形。腐人と呼ばれるこの異形は極めて人に近い姿をとり、鈍重な動きで群れをなす異形。皮膚が腐って剥がれ落ち、骨のはみ出した身体の節々から異臭をはなつため、同じ異形たちにも嫌われているようだ。やって来た少女の新鮮な血肉を求めてじりじりと腐人たちがにじり寄る。この数の腐人を見ることは苦痛以外のなにものでもないが、欠片は確保しなくてはならない。   「悪いが、お前たちにつき合っている暇はない」   そう言い捨てて少女はカンテラを腐人の群に投げつけた。床に落ちて砕けたカンテラから赤い炎が立ち上り、一瞬だけ腐人たちの目が彩女から離れる。 その瞬間、自分の周囲に無数の光弾を形成した彩女は腐人たちの中央を駆け抜けた。彩女につかみかかろうと手を伸ばした腐人が旋回する光弾に触れた瞬間、光の弾が炸裂し、まばゆい光が数多の異形を葬り去った。その光に怯んでいる異形の群れを駆け抜け、欠片を拾い上げた彩女は即座に眼前の壁に、残った光弾を叩きつける。石壁は音を立てて崩れさり、月の光が薄暗い室内に差し込んだ。
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