第零夜 歪んだ世界

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二節   燃え盛る町。富士見市は完璧な大混乱に陥っていた。あるはずのない光景に、人々は恐れおののく。赤く染まった夜空を飛び回る異形に為すすべもなく引き裂かれ、その血肉を喰らわれる。空の驚異から逃れるために家屋の中に逃げ込んでも、大地を這う異形が迫る。富士見市は地獄と化していた。 阿鼻叫喚のその光景を、娘は半壊したビルの上から見下ろしていた。そしてひとつため息をついて、自分を取り囲む異形に目を向ける。   「止めておけ。貴様らでは触れることもできん」   娘は冷淡な口調でにじりよる異形どもに言い放った。異質な空気を感じたのか、異形の瞳がかすかに歪む。それでも彼らは翼を強く羽ばたかせて、娘に飛びかからんとしていた。そんな異形の様子を見て、やれやれと娘は首を振る。刹那、怪物たちが四方から娘に飛びかかった。 目にも留まらぬスピードで怪物は娘に殺到し、我先にと獲物に群がる。だが彼らは気付いた。自分たちの鋭い鉤爪には、ただの一滴の血も付いていないことに。そして直後に投げ掛けられたのは、頭上からの娘の冷たい言葉だった。   「飛妖風情が……身の程を知れ」   そう彼女が言い放った瞬間、天にたたずむ娘の手のひらから無数の光弾が撃ち出された。瞬く間に光弾は呆然とする飛妖たちを打ち砕き、その場に残されたのはコンクリートに穿たれた無数の穴と、わずかばかりの肉塊である。 娘は無惨な最期を遂げた飛妖たちを見向きもせずに、その身体を宙に浮かべたまま、漆黒の瞳を上空に集まる飛妖の群れに向けた。
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