第零夜 歪んだ世界

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四節   間一髪。炎の塊をよけた娘はその飛来した先を見上げた。   「久しぶりだな」   娘は視線の先にたたずむ人物にそう言って、同じ高度まで浮かび上がる。   「相変わらずの調子だな、蒔奈」   「姉さんこそ、その偉そうな口振りは変わってねぇな」   蒔奈と呼ばれた少女が威勢良く答える。姉とよく似た顔立ちで、漆黒の短髪の少女だ。勝ち気な印象を受ける。   「この所業はお前の仕業か?」   姉は冷ややかな笑みを浮かべて妹に訪ねた。   「いいや、あたしだけの力じゃないさ。でも、あんたを倒すのはあたしだけで充分だ」   紅の炎を右手から立ち上らせて、一気に姉との距離をとる。   「忌夢の守護者、神楽 彩女を倒すのは、このあたし! 神楽 蒔奈だけさ!」   大きく振りかぶって無数の炎弾を姉めがけて投げつける。炎弾は弧を描いて直進し、冷眼の娘に襲いかかった。 しかし、その炎が娘に燃え移ることはなかった。姉、彩女は光弾で炎を相殺し、急速に妹との間合いを詰める。 そして両者が接触した瞬間、炎上する都市にすさまじい爆音が響きわたった。   「くっ!」   蒔奈は光と炎の爆風に吹き飛ばされ、すんでのところで体勢を立て直す。しかし目線を漂う黒煙に戻した瞬間、飛来した光弾が彼女の肩を貫いた。   「!」   「愚かだな、妹よ。お前が私に勝てる道理などないさ」   煙の中から冷笑を浮かべた彩女が姿を現した。すでに両手には次弾として撃ち出すための光が輝いている。   「まともに私に挑んで、一度でもお前が勝てたことがあったか?」   「うるさい!」   流血する肩を抑えながらも蒔奈は炎弾を姉に撃ちかけた。そんな彼女の行動に、彩女はため息をついて炎を一蹴する。   「これでわかったか? まだお前では勝てん」   なおも向かってこようとする妹の四肢に光弾を撃ち込む。手足を塞がれた蒔奈が力なく墜落していく。 瓦礫の上に倒れた妹に、姉は冷たい視線を向けたままたずねた。   「仲間はどこだ?」   「……」   「これだけ大規模な侵食だ。おおかた、ろくな仲間ではなさそうだが。私には異形どもを防ぐ義務があるのでな」   黙り込む妹。彩女は光弾を溜めた手を蒔奈に向けて、もう一度だけ質問する。   「答えろ。幽世に魂を落としたとはいえ、実の妹だ。手に掛けたくはない」
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