3人が本棚に入れています
本棚に追加
四節
間一髪。炎の塊をよけた娘はその飛来した先を見上げた。
「久しぶりだな」
娘は視線の先にたたずむ人物にそう言って、同じ高度まで浮かび上がる。
「相変わらずの調子だな、蒔奈」
「姉さんこそ、その偉そうな口振りは変わってねぇな」
蒔奈と呼ばれた少女が威勢良く答える。姉とよく似た顔立ちで、漆黒の短髪の少女だ。勝ち気な印象を受ける。
「この所業はお前の仕業か?」
姉は冷ややかな笑みを浮かべて妹に訪ねた。
「いいや、あたしだけの力じゃないさ。でも、あんたを倒すのはあたしだけで充分だ」
紅の炎を右手から立ち上らせて、一気に姉との距離をとる。
「忌夢の守護者、神楽 彩女を倒すのは、このあたし! 神楽 蒔奈だけさ!」
大きく振りかぶって無数の炎弾を姉めがけて投げつける。炎弾は弧を描いて直進し、冷眼の娘に襲いかかった。
しかし、その炎が娘に燃え移ることはなかった。姉、彩女は光弾で炎を相殺し、急速に妹との間合いを詰める。
そして両者が接触した瞬間、炎上する都市にすさまじい爆音が響きわたった。
「くっ!」
蒔奈は光と炎の爆風に吹き飛ばされ、すんでのところで体勢を立て直す。しかし目線を漂う黒煙に戻した瞬間、飛来した光弾が彼女の肩を貫いた。
「!」
「愚かだな、妹よ。お前が私に勝てる道理などないさ」
煙の中から冷笑を浮かべた彩女が姿を現した。すでに両手には次弾として撃ち出すための光が輝いている。
「まともに私に挑んで、一度でもお前が勝てたことがあったか?」
「うるさい!」
流血する肩を抑えながらも蒔奈は炎弾を姉に撃ちかけた。そんな彼女の行動に、彩女はため息をついて炎を一蹴する。
「これでわかったか? まだお前では勝てん」
なおも向かってこようとする妹の四肢に光弾を撃ち込む。手足を塞がれた蒔奈が力なく墜落していく。
瓦礫の上に倒れた妹に、姉は冷たい視線を向けたままたずねた。
「仲間はどこだ?」
「……」
「これだけ大規模な侵食だ。おおかた、ろくな仲間ではなさそうだが。私には異形どもを防ぐ義務があるのでな」
黙り込む妹。彩女は光弾を溜めた手を蒔奈に向けて、もう一度だけ質問する。
「答えろ。幽世に魂を落としたとはいえ、実の妹だ。手に掛けたくはない」
最初のコメントを投稿しよう!