第一夜 そぼ降る雨にうたれて

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一節   富士見市から少し離れた小高い丘に、その屋敷は建っていた。古めかしい、洋館を連想させる外観。塗装の剥げた木造の屋根から透明な朝露が滴り、新しい一日の始まりを告げている。 そうして天に陽が昇り、空が青く染まった頃、この屋敷の主も目覚めたようだ。   午前七時を告げる目覚まし時計をおぼつかない手つきで止めて、彼女は緩慢な動きで布団から這いだした。寝ぼけ眼をこすって立ち上がり、寝間着から着替えようとタンスに歩み寄る。 一分間の着替えを終えて、自室のある二階からエントランスに降りてきたその瞳には、まだ惰眠の中に身を置いていたいという欲求の色が浮かんでいる。しかし彼女の朝は早い。   早朝の入浴を終え、完全に眠りから覚醒した彼女は続いて朝食を作ることに取りかかる。広大な屋敷の廊下に少女の足音だけが寂しく響く。彩女の住まいであるこの屋敷は古く、大きい。しかし、住んでいるのは彼女一人であった。とある理由で両親とは別れ、実の妹……神楽 蒔奈とも「意見の相違」によって別離している。以来、彼女は古くから神楽一族が所有してきたこの屋敷にとどまり、一人で生活してきたのだ。
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