768人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
浅倉は両手で抱えていた優華をそっとその場におろし、ガクンと膝をついて倒れる。
「どうしたの?」
優華はしゃがみこみ浅倉の顔を心配そうに覗きこんだ。
「疲れた……」
浅倉は仰向けに転がって、優華の腕を引き、自分の胸へと優華を抱き寄せる。
優華は引かれるがままに浅倉の胸元に頭を置く。
浅倉君、確実に弱ってる……?
優華は、浅倉の弱体化に責任を感じつつ、その事についてよく知りたくて、黙って浅倉の口が開かれるのを待った。
浅倉は優華のそんな思いを感じ取ったのか、これは君のせいじゃない、と優華の頭をそっと撫でる。
そんな浅倉に対して優華は、正直に話して、と静かに言った。
「やっぱり君には分かるんだな、僕の力がだんだん弱くなっている事」
浅倉は大きく息を吸った。それにあわせて胸の辺りがゆっくり上下する。
優華はその動きを肌で感じながら、浅倉のシャツの裾をギュと掴んだ。
「この世界にいる間、なぜかは知らないけど僕たちの力は絶対に回復しない。使えば使うだけ体に負担をかけるんだ。どうしても力を使いたいときは体力を力に変えて使う」
浅倉は淡々と話を続ける。
「君とキスする事で若干力を蓄える事ができるのだけど、それでも足りない」
「足りないって何が?」
優華はすかさず質問をする。
それに対して浅倉はにこりともせず、深刻な事実を口にした。
「僕の世界に帰るための力が足りない。君を魔界につれていく事はおろか、一人で帰る事さえも、出来るかどうかわからない」
……雨はいつの間にかやんでいた。
最初のコメントを投稿しよう!