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コンコン、と優華は部屋をノックする。が、部屋からは何の反応もない。
自分の事を探してくれているのだろうか?
そんな事が頭に浮かんだが、扉の鍵がはずされるガチャリという金属音と、それに続く美香の声に一瞬でかき消された。
「優華っ!どこ行ってたの?心配したのよ?」
「ごめんなさい……」
優華は俯く。
「何も言わずに出てくからびっくりしたよ!でも戻ってきてくれてよかった」
美香はにこりと笑う。それにつられて優華もぎこちなく笑う。
優華は思った。
浅倉君がまた記憶を書きかえたのだろう。だけど力が弱まっているのに……
優華は浅倉の何気ない優しさに胸が押し潰されそうになったが、同時に感謝の気持ちがぐっとこみ上げてきた。
優華は部屋に入り、扉にしっかりと鍵をかけた。
「美香!お風呂入った?」
「うん。入ったよ」
優華は少しにやつき、全く濡れていない洗面所の床を見ながら話を続ける。
「おかしいなぁ。全く濡れていないんだけど」
「そりゃそうよ。だってあっちの部ゃ……いや、えっと」
「やったんだ」
洗面所から出てベッドの端に腰かけた優華は、荷物の整理をしている美香をじぃっと見つめる。
その視線に気付いた美香は、顔を真っ赤にして、視線を反らす。
「仕事から帰ってすぐに優華が部屋を飛び出したからそのあと一人でさびしかったの!」
美香は顔を赤くそめてそう言った。
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