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優華と浅倉の二人は街中を一通りふらふらした後、暗くなってきた事もあってか、優華の家に向うことにした。
浅倉は優華の手を優しく包み、その温もりが優華の心を温かくする。
二人は無言ではあるものの、固く繋がれた手から互いに想いの強さを感じとっていた。
優華の家が見えてきた辺りで、浅倉はふと立ち止まった。
浅倉は数メートル先の暗闇を見据えている。
「どうしたの?」
優華も前方の暗闇を見つめる。
「やあ!久しぶり!」
急に暗闇から人が現れた。優華はびっくりして浅倉の手をギュと握る。
「あっごめん。痛くなかった?」
「優華くらいの握力じゃ全然痛くないさ。それより……」
浅倉は現れた男を見続ける。そこには和也が立っていた。
「仲良くご帰宅ですか?」
和也はそう言って笑った。優華は何も言えなくて、何とも言えない複雑な気持ちになって、黙りこむ。
「さて。言いたいことが山程ある。だがその前に……」
和也は両手を広げて何かボソッと呟いた。
――そのとたん、優華の世界から音が消えた。
それまでうるさいくらいに鳴いていた蝉も一瞬にして静まり返った。
「異空間に飛ばさせてもらったよ。リーガル、貴様を殺す瞬間を誰かに見られたくないからね」
世界から消えたのは音ではなく、優華たちのほうだった。
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