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優華は目の前の異様な光景に、ただ唖然としていた。
和也が今にも浅倉君を殺さんとばかりに敵意をむき出しにしている。そして和也は浅倉君の別名も知っている。さらには和也が私たちを異空間だかに飛ばしてくれちゃった?
「和也、あなたは……」
優華の頭ではひとつの確実な結論に達していたが、まだ心はそれを認めたくないのか、はっきりと言葉にすることができない。
が、そんな優華の思いを吹き飛ばすように和也は声高らかに笑った。
「優華、お前の思っている通り、俺はそこに立っているリーガルと同じ生き物だ。和也なんて人間は元々存在しない!9年前からお前は俺の作り上げた架空の人物に惑わされていたんだよ!」
「え?」
「まだわかんねぇのかよ。9年前、お前の母親を殺したのはこの俺だ。そのあとあたかも『和也』という男が昔からそこにいたような記憶を作り出し、それをこれから『和也』に関わっていくであろう人間達に植え込んだんだよ!」
「あなたが、私のお母さんを殺した?」
優華は今にも爆発しそうな感情を必死に抑えて、男を睨む。
「そうだ、俺だ。俺が殺した」
優華は目の前の男を憎むと同時に、自分の愚かさ、間抜けさに腹がたった。その感情は涙となり優華の頬を伝う。優華は激しい自己嫌悪に陥った。
「私はお母さんを殺した男を好きになっていたというの?」
浅倉は隣でそんな優華の頭を優しく撫でる。
「それは違うよ、優華。君は奴を好きになったりしていない。させられていたんだ」
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