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12月24日。
日本中が飾り立てられ浮き足立つ、異国の祭の日。この地味な田舎町も、どこか浮かれた空気に包まれている。
アパートの裏にある薄暗い通り、私の部屋のちょうど真下では、制服姿の男女が抱き合っている。まだ昼過ぎだと言うのに大胆なものだ。ここなら人目につかないとでも思っているのだろう。
蛇かナメクジのようにねっとりと絡み合う高校生をひと睨みし、私はカーテンを閉めた。
クリスマスなんてなくなってしまえばいい。
それは一週間ほど前、忙しい浩一さんが珍しく休みを取れた日のことだった。
浩一さんは大学の先輩で、私の恋人。今年の春、私より一足先に卒業して、今は近くの病院で働いている。
どこか遊びに行こっか、という浩一さんの誘いを私は断った。代わりに、私の提案で、浩一さんの部屋でのんびりしようということになった。毎日仕事で疲れている浩一さんに、たまにはゆっくり休んでほしかったのだ。
「なつめ」
昼食の片付けを終えてテレビを見ていると、不意に浩一さんが私の名を呼んだ。
「ごめん」
いきなりどうしたんだろう。訳が分からない。思わず隣にいる浩一さんを振り返る。
「何かありました?」
「24日、仕事入った。多分、会えないと思う」
ごめん。浩一さんは申し訳なさそうに私を見て、繰り返した。
「何それ」
楽しみにしてたのに。
「ごめん」
「また仕事ですか」
「また、って…」
「ちょっと早く抜けるとか出来ないんですか?晩ごはんだけでも一緒に食べましょうよ。それか25日にしてもいいし。ね、ねっ?」
「無理だよ。25日は仕事だって言ったろ?そうそう抜けられるわけじゃないし」
なつめも、分かるだろ?そう言って浩一さんは微笑んだ。いつもみたいに優しく、でもいつもより寂しげな笑顔。
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