黒髭サンタクロース

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浩一さんの言う通り、本当は分かっていた。私も大学を卒業したら、浩一さんと同じ道に進むのだから。浩一さんの仕事のことも、そう簡単に休めないし抜け出せないってことも、ちゃんと分かっているつもりだった。我慢できるはずだった。 それなのに。 我儘は、止まってくれない。 私はかなり感情的になっていた。一方的にまくし立て、子供みたいに泣きじゃくり、浩一さんの部屋を飛び出した。歩いて数分の自分の部屋に帰ると、コートのポケットで携帯電話が震えている。となりのトトロ。浩一さんからだ。 私は携帯電話を開き、「浩一さん」の文字を確認すると、終話ボタンを押した。 早く謝らなきゃ。そんなの分かってる。私が悪いんだから。 ただ、怖かった。 怒ってるだろうな、嫌われちゃったかな…怖くて、電話に出られなかった。 悪いのは全部、私なのに。 それから一週間、私は浩一さんからの電話やメールを無視し続けた。怒っている浩一さんの声を聞きたくなかった。別れの言葉を聞きたくなかった。謝る勇気も出なかった。 夕食を買うべく、私は駅前のコンビニに向かっていた。だんだん暗くなっていく空とは対照的に、看板や民家の塀や街路樹に、次々と灯りがともっていく。街はいよいよ浮かれ出し、すれ違うカップルや親子連れは皆強烈な幸せオーラを放っている。背を丸めて歩いていると、不意に何かのチラシを押し付けられた。顔をあげると、サンタクロースの格好をした男の子の、中途半端な営業スマイル。何かのイベントだろうか、駅前広場はこれまた派手に飾り付けられ、安っぽくアレンジされたクリスマスソングが流れている。何が「恋人はサンタクロース」だ。私はチラシを読みもせずにポケットに押し込むと、再び背を丸めてコンビニに入った。
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