黒髭サンタクロース

4/5
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
それにしても、今夜は寒い。カップ麺ひとつの不健康な夕食を終えると、私は片付けもせずにこたつに潜り込んだ。 こたつから頭だけ出して、ぼんやりとテレビを眺める。似たり寄ったりなクリスマス特番に飽きてテレビを消し、何気無く部屋を見回すと、大きなトトロが目に入った。今年の夏、私の誕生日に浩一さんがくれたものだ。 ━━「あっ、トトロ…!すごい可愛い!すごいおっきい!」 「なつめが気に入りそうだと思って」 「はい!ありがとうございますっ…!」 「どういたしまして」 「…浩一さんってトトロに似てますね」 「…トトロ?喜んでいいのかよくわかんねぇけど」 「いいじゃないですかトトロ。おっきいしなんだか可愛いし頼もしいし」 「…そっか」━━ 涙が、こぼれた。 優しい笑顔が、柔らかな低い声が、抱き締めてくれるぬくもりが、鮮やかに蘇ってくる。 私は子供だ。浩一さんに甘えてばかりで、我儘ばかりで。全然、何も分かってなかった。 自分の幼さが悔しかった。そのくせ、浩一さんに触れたかった。甘えたかった。 会いたい。 浩一さんに会いたい。 会って、謝りたい。 私はわあわあ声をあげて、子供みたいに泣き続けた。想いが溢れて、止まらなかった。 どれだけ泣いていたのだろう。 突然、玄関のチャイムが鳴った。こんな顔で出られるはずもなく、私は居留守を使おうとした。が、今夜の来客はなかなかしつこく、何度もチャイムを鳴らしてくる。 諦めて出ようと立ち上がり、ふと時計に目を遣った。11時13分。こんな時間に何の用だろう。まさか変質者…!私は片手に護身用の催涙スプレーを握り、恐る恐るドアを開けた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!