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「メリークリスマス」
「…浩一さん」
そこにいたのは変質者ではなく、息を切らした浩一さんだった。
「浩一さん…っく…ふえっ…」
収まりかけていた涙が、再び溢れだす。浩一さんは私をそっと抱き締めてくれた。
「うん、ごめんな。寂しかったよな」
「ううんっ…我儘言ってごめんなさいっ…」
「うん、もういいから」
私は暫くの間、浩一さんにしがみついて泣いていた。そっと頭を撫でてくれる浩一さんの掌が、とても暖かかった。
やがて、泣き止んで落ち着いた私の頭に、ひとつの疑問が浮かんだ。
「今日仕事って…」
「さっき終わった。まだ間に合うかと思って」
相当急いで来てくれたのだろう。髪はボサボサだし、髭は伸びかけのまま。いつもは会う前にきれいに剃り直されているのに。
さらに、気になるところがもうひとつ。浩一さんは真っ赤なセーターを着て、真っ赤なニット帽を被っていた。それは、まるで。
「…サンタクロース?」
「衣装売り切れてた。ケーキはまだあったから買ってきた」
なつめが喜ぶかと思って。
「そんなに子供じゃないですよ」
私は浩一さんに抱きついた。大好きな、私だけのサンタクロース。
「ケーキ、食べよっか」
「はいっ」
浩一さんを部屋に招き入れ、私は紅茶を淹れに台所へ向かった。
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