黒髭サンタクロース

5/5
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「メリークリスマス」 「…浩一さん」 そこにいたのは変質者ではなく、息を切らした浩一さんだった。 「浩一さん…っく…ふえっ…」 収まりかけていた涙が、再び溢れだす。浩一さんは私をそっと抱き締めてくれた。 「うん、ごめんな。寂しかったよな」 「ううんっ…我儘言ってごめんなさいっ…」 「うん、もういいから」 私は暫くの間、浩一さんにしがみついて泣いていた。そっと頭を撫でてくれる浩一さんの掌が、とても暖かかった。 やがて、泣き止んで落ち着いた私の頭に、ひとつの疑問が浮かんだ。 「今日仕事って…」 「さっき終わった。まだ間に合うかと思って」 相当急いで来てくれたのだろう。髪はボサボサだし、髭は伸びかけのまま。いつもは会う前にきれいに剃り直されているのに。 さらに、気になるところがもうひとつ。浩一さんは真っ赤なセーターを着て、真っ赤なニット帽を被っていた。それは、まるで。 「…サンタクロース?」 「衣装売り切れてた。ケーキはまだあったから買ってきた」 なつめが喜ぶかと思って。 「そんなに子供じゃないですよ」 私は浩一さんに抱きついた。大好きな、私だけのサンタクロース。 「ケーキ、食べよっか」 「はいっ」 浩一さんを部屋に招き入れ、私は紅茶を淹れに台所へ向かった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!