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『ぶぁっくしょん!!』
勇次はこの日21回目の豪快なくしゃみで人よりも少し早い春の訪れを感じていた。
『あ~また嫌な季節になってきやがったぜ、まったくよ~!・・・は、は、は、ぶぁっくしょん』
彼の通う大学は、バスはもちろん車でも苦労するような山道を小一時間登った先にある。何でこんな大学に入ってしまったのかと、未だに後悔しながらまたひとつくしゃみをする。そんな彼の大学生活も今年で2年目になる。
『勇次!』
同級生の政男だ。
背後から人一倍大きな声で、しかも決まって同じ場所で自分の名前を呼ばれる事も、自動的に2年目という事になる。
『いや~もうそんな季節かぁ~』
彼もまたくしゃみをしている勇次を見て、春の到来を感じていた。何も代わり映えしない毎日だが、二人はそんな生活が結構気に入っていた。
この日もいつもの様に同じ時間、同じ場所で政男と勇次は少し遅い昼食をとっていた。
・・・その時!
『もしかして勇次君?』
背後から聞き憶えのない、線の細い声が二人の箸をピタリと止めた。そして二人は声のヌシを確認しようと、ゆっくり振り向いた・・・・
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