届かない距離

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 渇いていた。喉が、焼け付くように痛みを放ち、渇いていた。  始まったばかりの春の、青む空の下で、初めて祐樹を見た。新入部員が並ぶ。おれの隣で、西野祐樹と名乗った。先輩たちを前に、挨拶を終えた祐樹が、おれを見上げた。 「おれ、おまえ知ってるぜ。浜崎修吾。去年の全中、県大会で優勝したときの、得点王だよな。すっげえシュートだった。めちゃ感動したんだぜ。同じがっこなんて、ラッキー! ツートップ組めたらいいな!」  おれの傍らで、たんぽぽの花が咲いた。  陽の光りを受けて煌めく柔らかい茶髪も、笑みで湾曲を描いた眦も、綺麗に並ぶ白い歯も、明るい声も、すべてがおれの内側に、強く焼き付いた。  あのときから、おれの中身はぜんぶ、祐樹に持って行かれた。まだ十五歳になったばかりだった。  祐樹の近くにいたい。そばにいたいのに、近付けば近付くほどに、息が詰まる。伸ばしたい手を、にぎりしめる。  あれから一年半。緑のフィールドに立つ、まっすぐに伸びた背中だけを、追ってきた。  伝える勇気もなく、喉の渇きをだけを抱えていた。  腕の中の祐樹が、小さく身じろいだ。
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