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   会計を済ませエレベータを待つ間、電源を入れたパパの携帯は鳴りっぱなし。  僕に背を向けて、部下らしき人に電話で指示している。  分かっていた事だけど、割り切れない。  毎日電話で話しているけど、いつも1、2分だけ。  会話らしい会話なんてない。  会ったら色々話したい事があったのに、半分も話せていない。  この様子だと、一緒に帰るのも無理だろうし……。  「ごめんね」  電話を終えたパパが僕の方に向く。まだエレベータは来ない。  「いいよ。相変わらず忙しそうだね」  「暫くはね。この後パパ、会社に戻らないといけないから、悠貴はタクシーで帰りなさい」  スーツの内ポケットから財布を取り出し、1万円札を数枚僕に渡してくれた。  「進級祝いと誕生日を一緒にして悪いけど、好きな物買っていいよ」  「タクシー代だけでいいのに」  受け取ったお金を自分の財布に仕舞う。  「貯金は駄目だからね。ちゃんと買うように。次に会った時に見せてもらうから」  先に言われてしまった……。  到着したエレベータに乗り、僕は一階。パパは地下のボタンを押す。  「節約するのもいいけど、たまには贅沢しなさい。悠貴は真面目すぎるよ。たまには、羽目を外した方がいい。まだ時間も早いから何か買って帰るように」    溜め息しか出てこない。  見てないようで、しっかり見てたんだ。  それはそれで嬉しいんだけどね。  「わかった」  「よろしい」  僕の言葉にパパはにっこり笑うと、頭を撫でてくれた。  「もう、子供じゃないんだから」  怒ればパパがにっこり笑う。  「子供だよ。パパにとって悠貴はいつまでも可愛い息子なんだから」  
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