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「疑って申し訳ありませんでした」
通話を終えた男が謝りながら、僕に携帯を返してくれた。
「誤解が解けたならいいです。それよりも、腕を放してもらえませんか?」
出入口に近いせいか、不思議そうな顔をしながら客が通り過ぎて行く。
当然といえば当然の反応。
この人も、華奢な女の子ならともかく、男の腕なんかいつまでも掴んでなんかいたくないよね。
「私に疑ったお詫びをさせてもらえませんか?私は一条寺暁と申します」
「相沢悠貴です」
一条寺さんの名刺を受け取って、僕も自分の名前を教える。
「お詫びをさせていただけますね?」
もう一度聞かれ、僕は頷いた。
「では行きましょうか。悠貴」
いきなり名前を呼ばれてドキッとなる。
更に、僕の肩に一条寺さんの手が触れる。
エスコートしてくれているのだろうけど、心臓に悪いよ。
結局、フロントを横切りエレベーターへ。
一条寺さんは下のボタンを押している。
「明日は土曜日ですから、多少遅くなっても大丈夫ですよね?」
とりわけてしたい事もないし、パパ以外心配するような家族もいない。
「はい。大丈夫です」
「それは良かった」
何が?と聞く間もなく、エレベーターに乗せられ地下駐車場に連れて来られてしまった。
一条寺さんの後ろを歩きながら、止められている高級車の数々に目を奪われる。
「悠貴、こっちですよ」
一条寺さんの声で僕は我に返った。
後ろで声がするということは、車に気を取られて行き過ぎたんだ。
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