5/8
前へ
/318ページ
次へ
「疑って申し訳ありませんでした」 通話を終えた男が謝りながら、僕に携帯を返してくれた。 「誤解が解けたならいいです。それよりも、腕を放してもらえませんか?」 出入口に近いせいか、不思議そうな顔をしながら客が通り過ぎて行く。 当然といえば当然の反応。 この人も、華奢な女の子ならともかく、男の腕なんかいつまでも掴んでなんかいたくないよね。 「私に疑ったお詫びをさせてもらえませんか?私は一条寺暁と申します」 「相沢悠貴です」 一条寺さんの名刺を受け取って、僕も自分の名前を教える。 「お詫びをさせていただけますね?」 もう一度聞かれ、僕は頷いた。 「では行きましょうか。悠貴」 いきなり名前を呼ばれてドキッとなる。 更に、僕の肩に一条寺さんの手が触れる。 エスコートしてくれているのだろうけど、心臓に悪いよ。 結局、フロントを横切りエレベーターへ。 一条寺さんは下のボタンを押している。 「明日は土曜日ですから、多少遅くなっても大丈夫ですよね?」 とりわけてしたい事もないし、パパ以外心配するような家族もいない。 「はい。大丈夫です」 「それは良かった」 何が?と聞く間もなく、エレベーターに乗せられ地下駐車場に連れて来られてしまった。 一条寺さんの後ろを歩きながら、止められている高級車の数々に目を奪われる。 「悠貴、こっちですよ」 一条寺さんの声で僕は我に返った。 後ろで声がするということは、車に気を取られて行き過ぎたんだ。
/318ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1883人が本棚に入れています
本棚に追加