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キキの寝顔を愛おしそうに眺めるユウキを見て、チリはあの日の事を思い出す。
―私、烏と一緒に暮らしているの
去冬の二月の始めの頃、小さな白い息を吐きながら、ユウキは言った。
ユウキは、―烏を飼っている、ではなく、―烏と暮らしている、と言った。
その言葉で全てを悟ったチリはなにも聞き返さず、ただ、
「そうか。」
とだけ言った。
「ええ、そうよ。」
何か食べる?昨日の残りのスパゲティーがあるわ、と立ち上がるユウキ。キキも目を覚まし、ばさばさと羽をはばたかせてチリの肩に乗る。そしてチリは、烏の燃えるような瞳を見た―
「いや、今日はもう帰るよ。」
「あらそう?わかったわ。」
こういう時、何かあるのか、と聞き返さないのが、ユウキのいいところだ、とチリは思う。
ユウキはチリの肩に止まっているキキに腕を差し出し、自分の肩へと移動させる。
キキはもう一度、その真っ暗な羽をはばたかせた。
二人―と一羽―は並んで玄関まで歩き、別れを言う。
「じゃ、ありがとな。」
「こちらこそ、気をつけてね。」
そうして、夕闇のなかを歩きだした。
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