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…あれから、二年。
自分の心を覆う氷は、もう無い。やっと、そう思える様になった。
あたための終わったチキンの大皿を、リビングに運ぶ紗香。その目の前には、ろうそくに火を灯す祐介の笑顔があった。
「おっしゃ準備完了!ほんなら俺、電気消して来るから。紗香こっち座り」
大阪生まれの祐介は、その生まれ故郷の土地柄以上に明るい性格の持ち主だった。
いつにも増して、高いテンションの祐介。
彼を前にして、紗香の口許は自然と和らぐ。
室内の照明が明かりを落とすと、バースデーケーキに刺さった二十八本のろうそくが、柔らかな光で辺りを照らす。
暗がりの中、祐介の姿を探すと、いつの間にやら彼は神妙な面持ちで直立不動の体勢をとっている。
その光景があまりに可笑しくて、紗香は思わず吹き出していた。
「あほ、何で笑うねん」
そう言いながら、紗香のワンルームには一時の静寂が訪れ、祐介による
『Happy Birthday』の熱唱が始まった。
まるでオペラ歌手であるかのように、大仰に身振り手振りを加えながら、祐介は歌う。
必要以上に大きな声で、彼は歌い続ける。
『ここのアパートの壁は薄いんだから、あまり大声を出すな』
と、紗香は幾度と無く彼に言った。
『声のでかいのは生まれつきだから仕方が無い』
その度に返ってくる答えも、いつも同じだった。
何度言っても直らない、祐介の大声。
今、目の前で発せられる大声に対し、紗香は何も言わない。
決して上手いとは言えない祐介の歌声は、深く、紗香の胸に染み渡っていった。
祐介の、自分に対する痛い程の愛情を感じ、強く噛み締める。
胸の奥に、何かが込み上げてくる。
気付けば、熱いものが頬を伝っている。
前が、見えない。
歌い終わった祐介が、ろうそくの吹き消しを促す。その気配を感じて、紗香はそれに応じる。
泣いているのを祐介に悟られる事が気恥ずかしく思い、紗香は急いでろうそくを吹き消した。
一瞬の暗転の隙に、泪を拭う。
祝福の彼の大声と、派手な拍手に包まれながら、部屋の照明が元に戻る。
「おめでとう紗香!」
そう言って、祐介は小さな包みを紗香に差し出した。
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