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漸く落ち着いた紗香に、祐介は言った。
「さぁ、ほんならケーキでも切るか。ナイフかなんかあんのんか?」
鼻を啜りながら、紗香はキッチンを指差す。
祐介が立ち上がった時、紗香の携帯が鳴った。
「もしもし」
「あ、店長?お疲れ様です、佐伯です」
電話の相手は、紗香の店の従業員、佐伯遥だった。
遥は、紗香の休日に店を任せられるだけの実力を持っている。
今日が紗香の誕生日である事を知る彼女は、昨日の職場でこんな事を言っていた。
『どんなトラブルがあっても、明日は店長無しで切り抜けてみせます』
若いのに、良くやってくれている。
紗香は、佐伯遥に全幅の信頼をおいていた。
そんな彼女が電話を掛けてくるのだから、よほどの事があったのかも知れない。
「どうしたの?何かあった?」
「別に電話する程の事じゃないかも知れないんですけど、ちょっと気になる事があったもので」
会話しながら祐介を見ると、彼はキッチンでジェスチャーを送っていた。
『ナイフどこにあんねん!』
というような内容に見える。
『ちょっと待って』
という動作で返し、紗香は遥に言葉を返す。
「佐伯さんちょっとだけ待っててくれる?」
そう言い置いて、紗香は携帯の送話口を押さえてキッチンに目を戻した。
仏頂面で佇む祐介。それを見て少し吹き出してしまう紗香。
「何笑とんねん!」
「そこの引出しの中に無かった?」
「無いから聞いとんねん!」
「じゃあ包丁でいいよ」
アメリカ人の様に両手を拡げる祐介から目を逸らし、再び携帯を握り直す紗香。
「ごめんごめん。で?何があったの?」
「店長、ソウル・イーターって御存じですか?」
「ソウル・イーター?」
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