エピローグ

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間嶋充生は、まだ日の高い内から酒に付き合わされていた。 新庄央探偵事務所のリビングで、ささやかな祝杯の宴を催しているのだ。 新庄は、先程から狂った様にグラスを傾け、ひたすら煙草を吹かし続けている。 それに負けじと劣らず、早坂もかなりのハイペースでグラスを呷っている。 リビングは、換気の為の窓を開け放しているにも拘らず、早朝の湖畔の様に霧がかかっていた。 「この副流煙で僕が肺癌になったら、絶対にあんたらを訴えますからね」 間嶋が半ば本気で苦言を口にする。 「よし、分かった。間嶋、君がもし肺癌になったら、俺の健康な肺とそっくりそのまま交換してやろう」 「嫌ですよ。どこが健康な肺ですか」 あははと新庄が笑う。早坂はそのやり取りを見てにやにやしている。 「早坂さんも、お店いいんですか?」 「何を言ってる。今日は正真正銘の木曜日だぜ?たまには休ませてくれよ」 間嶋の記憶が確かならば、今回の事件が始まってからは休みっぱなしの様に思う。 何にせよ、事件は一応の決着が着いた。 魔物は全て、一掃されたと言っていいだろう。 『ソウル・イーター』を生み出した、西島祐介と小林紗香。 『アナザー』に囚われた、伊藤信男。 『アナザーⅡ』に蝕まれた、江田島尚志。 彼等はそれぞれ、魔物によって心を犯され、様々な贖罪を経て、人間の心を取り戻した。 そこには既に、『罪』は無い。 唯一、『ヒュプノシス』という魔物に取り憑かれた浅倉愼一に関しては、まだしばらくの時間が必要とされている。 彼の身柄は、北方藤兵衛が神戸へと連れ帰った。 名目は、『入院』である。 彼が、どの様な経緯で『催眠』という技術を会得したのかは、未だ解っていない。 何故なら彼は、 『ソウル・イーター』に心を侵食されるのを畏れて、自ら自己暗示を掛けてしまった疑いが強いからである。 それを解除するキーワードが、現時点でまだ解っていない。 そのせいで、彼は今、北方の在籍する灘村催眠診療センターに於いて、赤ん坊の様な状態で入院生活を送っている。 北方の言葉を借りれば、浅倉は 『第三者からの催眠を受け付けない催眠』 を、自らに施したらしい。 そのプロテクトを解除するには、現状では時間が必要である、との事だった。 我々としては、プロの手に委ねるしかないのだが。
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