くじら

3

｢問題ないな｣
と老医師は云った｡
煙管から煙が立ち昇る｡
｢あったりめーだ｣
と俺｡
ため息がこぼれる｡斜め下のタイルをみつめていると､
｢なんじゃ不満があるのか｣
老医師が云った｡
｢別に｣
｢思春期じゃのぉ｣
｢そんなんじゃねーよ｣
｢徳さんどうしとる｣
｢じいちゃんは…その｣
俺は視線をそらす｡
やはり斜め下のタイルを見つめる｡
｢きゃ､もう先生止めてください｣
顔を上げると老医師がナースの尻を触っていた｡
｢おいッ！｣
｢なぁーに､セキュリティチェックじゃよ｣
老医師は快活に笑った｡
｢な､なんのセキュリティなんですか｣
と蜜柑ちゃん｡
｢固いこと云っとたらあかんよ､ふぉほほほ…｣
別にいいんだけど､人の話し聞かないんだったら話し振んなよ｡
｢生体認証って知っておるか｣
｢生体認証？｣
｢バイオメトリクスとも呼ばれる個人認証技術､人間の体の一部を情報としてコード化することじゃ｣
そんなもん｡
聞いたことねーよ｡