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『失礼します』
機械を通した感情のない声を出しながら、わたしは部屋に入った。
「速かったですね。上出来です」
わたしを造ったとされる男性は、そう言いながら近づいてきた。
『はじめまして』
設定された台詞なのか、自然と口が動く。
「はじめまして」
彼はわたしに手を差し出してきた。握手の意だろう。
わたしもそれに従い、彼がヒトである証の体温を持つ手を、軽くにぎりしめた。
「立ち話もなんだし、リビングへ行きましょう」
そう言う彼は、とても繊細な顔立ちであった。
大切なケースに入れられていた、傷ひとつない人形のようである。
色素の薄い赤みがかった瞳に、吸い込まれそうになる錯覚を覚えた。
「さあ、ついてきて下さい」
儚く笑い、手招きをされた。
わたしはそんな彼についていき、部屋をあとにした。
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