第二章

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 お金を取りに来られても困る。ない袖は振れないのだから。幸いにして、ドアの鍵は三重にしてあるから強引に入ってくることは出来なくなっている。借金取り対策は万全だ。 「早く出てきて下さいよー。こっちだって遊びに来てるんじゃないんだからさー」  焦れてきたのか、「がんがんっ!」とドアを蹴る音が混じり始めた。  歩は息を止め、耳を塞ぎ、気配を絶った。命も断ちたいとこだがぐっと堪える。居留守の極意は、岩になることだ。小心者の歩に出来ることはそれしかない。  しばらくすると、借金取りの男も諦めることにしたようだった。 「ちっ、今日の所は帰りますよー。また明日にでも来ますから、その時こそ夜露死苦ー」  悪者の専売特許である捨て台詞を残し、男は去って行った。ほっ、と息をつく。  借金返済が滞っているのは事実だが、こうも毎日取り立てに来られては神経も参ってしまいそうだ。とりあえず、今日の所は事無きを得たわけだが。
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