第二章

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 とりあえず、日々の日課になった現実逃避でもしようかとしたその時。  こんこんと、ドアが叩かれ、 「新藤さーん、借金の取り立てに来ましたー。まずは出てきてお話をしましょー」  ハンコ下さい的なやたら軽いノリで、借金取りはドア越しに声をかけてきた。 「当方、脅しや暴力とは無縁の良心的な取り立て業者でーす。誠実をモットーに業務を遂行しているので安心して出てきて下さいな」  いつもと同じ決り文句を男は口にする。借金取りの男がモットーという言葉の意味を知らずに使っていることを、歩は知っていた。出れば、脅しと暴力が待っている。 「新堂さーん、いないんですかー? 居留守使ってたとしたら、小指の一本でもいただいて帰りますよー」  さっそく物騒なことを言い出した借金取りを無視し、歩は居留守を決め込んだ。
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