心と体

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 かわいがっていたネコが、死んだ。寿命だったし、最期を看取ることもできたから、悔いはない。が、ちょっと驚いたことがあった。息を引き取った途端に、その様子が明らかに変わったのだ。すでにぐったりと力なく横たわっていたのだが、それがさらにがくっと脱力し、骨格が崩れた。その瞬間、生きモノからモノに変化したことがはっきりとわかった。 自分も、死んだらあんなふうに「モノ」になってしまうのかな。そう考えて、試しにソファの上で全身の力を抜いてみた。でも、ただ寝ているようにしかならない。死体なら、きっと投げ出されたあやつり人形のようになるはずだ。それにネコは口も開いて舌をだらりと出していた。僕は全ての力を抜いたつもりでいて、口はしっかりと閉じていた。きっと他にも、体のいろんなところに、無意識の力が入っているんだろう。  そういうことがあってしばらくたってから、僕は広場の大テントにサーカスを見に行った。出し物の一つに、ヨーガか何かの行者と称する男のパフォーマンスがあった。彼は全身を信じられないほど自在に折り曲げてみせた。体が柔らかいなんてもんじゃない。時には関節を逆方向に曲げた。両手両足をぐにゃぐにゃによじって結び目を作り、意外な位置から頭を出してにやりと笑うのだ。
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