心と体

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終わってから楽屋を訪ねてみたら、行者は相手をしてくれた。どうしたらあんなことができるのかと聞くと彼はこう言った。 「自分の体だって本当はモノに過ぎないんだと認識する。そして、それを外側からコントロールするのです」 難しい言葉だったが、わかるような気がした。 「僕にもできるようになるでしょうか」 「特別なトレーニングは必要ない。ただ、意識を変えることです。まずは、無心になる。それは簡単なことなのですが、誰にでもできるわけではありません」 体の力を抜いてみなさいと言われた。やってみた。やっぱり、難しい。行者は僕の腰や腕を触り、無駄な力がかなり入っていることを指摘した。 「力を抜こう、と思ってはいけない。ただ、力を入れるのをやめるのです。死者を見習うことだ。我々は何もしていない時でも腕に力を入れ続けている。それをやめてしまえば、ほらこの通り」 彼の腕がモノになってしまった瞬間がわかった。彼はそれをもう一方の手でぐにゃぐにゃと曲げてみせた。 「人間というものはものすごくややこしい存在です。それを知ること。2本足で立つ、それだけでも、頭の中ではものすごい物理計算を行い、そして全身の関節や筋肉の挙動調整を図っている。それを我々はいつも何気なくやっている」
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