心と体

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なるほどこの体を、この形に維持するために、僕らは常に全身のいろんなところに微妙な力を入れ続けているってわけだ寝ているあいださえも。 帰り道、僕はあれこれと考え込みながら歩いていた。でも、そういう考えよりももっと高度な計算が、体の奥底ではいつも自動的に行われているのだ。スーパーコンピュータよりもすごいスピードで。 風が吹いて、僕は思わずくしゃみをした。はずみで眼鏡がすとんと落ちた。その時なぜか、 「心の力でこの体は一つにまとまっている」 …行者の、そんな言葉を思い出した。 心とは、人間とはなんて不思議なものなんだろう。なんだか歯がむずむずしてきた。口の中に歯がしっかりとついていることだって、よくよく考えると不思議なことだ。僕は前歯を指でつまんでみた…すぽん、とその歯が抜けた。他の歯も、力を入れずに触るだけですぽすぽと抜け落ちた。 僕はうわあと声を出して頭を抱えた。すると髪の毛の一部分がずるり、と抜けた。 何かのバランスが狂い始めていた。頭がゆらゆらと揺れ、まっすぐ立っているのがつらくなってきた。変なことを考えてはいけない。僕は自分に言い聞かせた。 深く息を吸って、吐く。しかし、たった2本の足で立っている自分がどんどん不自然に思えてきた。
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