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心にも体にも力がこもらなくなり、足がもつれ、崩れるようにその場に膝をつく。
顎も外れた。大きく開いた口の中から舌がだらーりと伸びてきた。
ばちばちっ。ぷち、ぷち。しつけ糸が切れホックが外れるように体のあちこちのパーツが緩み、弾け、飛び散った。目玉の片方もぼろんと落ちた。それらをあわてて拾い集めようと手を前に出した。するとその右腕が肘からもげ、地面にどさりと落ちた。
自分の身に起こったことに僕は戦慄した。それにしてもここは昼間の、街のど真ん中の通りだ。誰か、救急車を呼んでくれないか。そう思って、残った目玉で周囲をなんとか見回したが、通行人はみんな無関心にそっぽを向いている。これは夢か。いや違う。はっきりとした現実だ。
全身が、積み木のようにがらがらと崩れ落ちていく音。
街角でばらばらになったその男の無残な姿は、白い布で野次馬の視線から隠されている。救急車とパトカー。警官が、目撃者に話を聞いている。
「ええ、私すぐ近くで見ていました。その人、様子がおかしかったです。なんだか、死にたくてしょうがないって感じで……歩道からふらふらと車道に出ていって、そしてトラックに正面から跳ね飛ばされたんです。一瞬のことでした」
了
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