幻本

料理教室

そもそもの問題は､ｶﾚｰﾗｲｽも作れない女を彼氏がどう思うかということだった｡
一緒に買い物をするところまでは､なんとかうまくいった｡彼がｶｰﾄに食材をほうりこんでくれたから｡香辛料のｺｰﾅｰでは彼氏がいろいろと相談したがるので冷や冷やした｡本格的なｶﾚｰをｲﾒｰｼﾞしているのだ｡
ｲﾝｽﾀﾝﾄのﾙｰで作るｶﾚｰなんて邪道だよね､と､そんな会話に私はつい乗ってしまった｡粉末の香辛料を調合し､小麦粉やﾊﾞﾀｰと炒めるところから作る本格的なｶﾚｰを､私もずっと食べてはいた｡料理好きの母が生きていた頃までは｡
｢じゃあ､今夜は一緒に食べよう｣
彼がそう言い出したのだ｡私の家に初めて遊びに来た日のことだ｡
彼が一人で腕をふるってくれるかも……そんな期待も裏切られた｡
｢ここから先は君に任せるよ｡君の好きに作っていいから｣
そう言うと､私をｷｯﾁﾝに残して隣の部屋で寝ころんでしまったのだ｡
ｷｯﾁﾝに設置してあるﾓﾆﾀｰに､料理のﾊｳﾂｰ番組を呼びだそうかと思った｡しかし､ﾋﾞﾃﾞｵで配信される番組なんて､初心者向けの料理しか扱ってはいない｡香辛料から始める作り方なんて､あるわけがない｡絶体絶命｡
助けて､ﾌﾟﾗﾄﾆｯｸﾁｪｰﾝ!と､思わず呟いた｡本格的なｶﾚｰの作り方を教えて｡