回想

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回想

初めてのマコトとの出逢いは一年前だった。そのときはたまたま友達に誘われてクラブに入った。ドアを開けた瞬間、大音量の曲が耳に飛び込んできた。そのクラブは小さな空間で20人入ればいいほうかもしれない。ラッパーのような服装のDJがかなりノリノリで回していた。正直ただの爆音としか感じられなかった。しばらくすると交代して次のDJがブースに来て準備し始めた。顔は帽子を目深にかぶってよく見えないが頬から顎先がブラックライトにあたり、ぼうっと青白く浮かび上がった。一瞬形のよい唇が見えた。少し骨っぽいが細く長い指が神経質そうな印象を与えた。曲が流れた瞬間、電流が走ったような衝撃だった。初めての感覚だ。よく音楽にしびれるなんていうがなるほどと変なところで感心してしまった。小気味よいビート音なんだけど深くてどこか根底に暗さがある、そんな感じだ。私はその音楽に一瞬で惚れ込んだ。それがマコトとの魅力に一目惚れした瞬間だ。私はすごくマコトに興味を持った。クラブに行ってかっこいいとか好きな感じに近いかも、というのはよく感じる。でもここまで強烈に惹かれたのは今までにないことだ。クラシックやジャズの中にハードロックやメタルなどの鋭さがスパイスとなって効いているイメージ。不思議な魅力の音楽だ。10曲ほど終わり、次のDJに変わった。マコトは片付けをして帰ろうとした瞬間、女の子4、5人が群がった。やっぱり人気あるんだな。なんだか微笑みながら女の子と歩く姿にちょっと悔しい気持ちになった。クラブを出てそのまま友達と始発を待つため、マンガ喫茶で過ごすことにした。眠そうに少女漫画を読む友達にさりげなく装い、聞いてみた。「ねえ、あのマコトってDJの曲、よかったね。あの人、いつもあそこで回してんの」すると友達が言った。「うん、よく回してるよ。正直私はあの曲調はかっこいいけど聞いてるうちになんか怖くなってくるんだよね。自分も引き込まれちゃって。一回はまったら抜け出せなくなりそう。であの人、ウチの大学でしかも同級生だよ。川村マコトって知らない?確か英語の授業、一緒だよ。」…えっ、そうなんだ。「でもさぼりまくっててあんまり授業出てないみたいだけど。」私は嬉しくなった。かなりの接点だ。今は夜明け前で眠いはずなのに、元気になった。その後は漫画を読んでいても、始発の電車にいてもどうやってアプローチできるのか頭では妄想が膨らんでいた。
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