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『ただいまー』
『お帰りなさい』
リビングのドアからお母さんが、顔だけちょこんと出しす。
私が自分の部屋に行こうと、階段に足を掛けた時だった。
お母さんから思いもよらぬ事を聞き、その場で固まった。
『えっ?お母さん……今、何て言った?』
『だから、笙君が部屋で待ってるわよ』
『あっ……そう……』
私は重い足どりで、部屋の前まで来た。
だが、来たのは良いが身体が動かない。
笙とは、あの告白らしき事から逢っていない。
どんな顔をして逢えばいいのか分からず、ずっと逢わない様に避けていた。
稽古だって、一般の生徒さん達が終わり、誰も使わなくなった道場で一人で稽古をしていたぐらいだ。
(どうしよう……)
『何してるの?』
『わあっ!!』
突然の声に私は驚き声をあげた。
振り向くと、ジュースとお菓子をお盆に乗せて持つお母さんが立っていた。
『お母さん……ビックリさせないでよ』
ガチャ――
ドアが開く音が背後から聞こえる。
私は振り向く事が出来ずに、緊張で身体が支配された。
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