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「本来なら勝手に死んだ子に供える花などありませんが、ま、一応。世間の目もありますし。」 「全く…勝手に自殺などしおって。恥じさらしめ。」 私は空を見上げ、タバコの煙を大きく吐き捨てた。タバコの煙は空の雲へじんわりと、一体化していく。まるでニコチンに犯されたかの様に、雲はドス黒かった。 「あら…今にも雨が降り出しそうだわ。貴方、帰りましょう。」 二つの足音は橋の元から消えて行った。 ポツポツと降り始めた雨が、タバコの火を消した。私はそれからしばらくの間、ぼんやりとタバコを加えたまま空を眺めた。雨は次第に酷くなり、私はうつむいて胸ポケットから携帯灰皿を取り出し、雨で湿ったタバコを中へと入れ込んだ。私は雨にうたれながら彼の側へと歩み寄った。彼の隣に来ると、彼の頭上に鞄をかざした。 「ぬれるわよ。」 「…………。」 「…っ!」 彼は鞄の下で唇を噛みしめ泣き始めた。 私は彼がいつも眺めていた川の底を、雨が止むまで眺め続けた。 -次の朝。 彼の姿はそこにはなかった。 私は彼がいつも居た場所に行くと、塗れきってしおれてしまった花束の隣に、色とりどりの花束を置いた。 ふと、やわかな風が私を包んだ。 空を見上げると、眩しい日差しが私をさした。 私は花束に背を向けて、自宅へと歩き始めた。
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