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一幕/始まり
「だから、今頃になってそれを蒸し返す必要があるのかい」
監獄島の一部で大量殺人が起きている頃、島を仕切るハリスの書斎で、黒い髪を赤い輪ゴムで止めた白衣の青年が、至極真面目な表情で話を切り返す。
「四年前のクリティック崩壊事件は、神様騒動で決着が着いた筈だよ。
今更、再調査を、寄りにも依って彼とスピカ君にやらせる必要はないんじゃないかな」
「抗議内容は、それだけでしょうか、ユーリ博士。
其方の件に尽きましては、後程、詳細をまとめた資料をお渡しする予定になっております。
長官はお忙しいのです、お引き取りください」
がなる訳でも、詰め寄るわけでもないユーリの問い掛けにハリスの秘書が、静かに答えを返す。
指令を下したハリスは、書類に走らせる羽根ペンを止める気配がない。
「貴方達も納得してないんだろ。
危険分子を大陸に投げ捨てるなんて命令には」
「総本部からのお達しだよ。
詳細は分からなくとも、理由くらいは聞いているだろう」
ハリスが柱時計に目線を移し、資料を纏めて机の引き出しにしまう。
「ああ、聞いているよ」
「ならば、なにも言うことはあるまい。
君の溺愛するPCイリスが弾き出した答えだ。
イリスの計算に狂いがあるなら、それはどう説明してくれるのかな」
「イリスは、関係ないだろ。
こじつけも甚だしいね」
ハリスが立ち上がり、秘書から上着と鞄を受け取る姿を、片側だけの青い瞳でサングラス越しに睨み付ける。
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