2章

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「は?」 予想外の言葉に、以蔵は目を見はる。 任せるとは言いながら、実際に断ったのは初めてだからだ。 「別に文句を言うわけじゃねーけど、‥‥何でだ?」 「土佐なんてあたしには全く関係ないし、しょせん『お役目』」 『仕事』でなければお金は入らない。 「イコール意味がない」 「イコール?」 「すなわち、とかそーいう意味」 声を揃える以蔵と森田に、何てこともないように遼香が答える。 「暗号ですか?」 「いや、海の向こうの言葉らしい」 彼女は時たま、こうして意味の分からない言葉を吐く。 異国の言葉である事を知った以蔵が注意しても、それを変える事はなかった。 「大丈夫なんすか?!」 「放っとけ。覚えといて損はないらしいぜ」 「‥‥‥」 黙り込んだ森田を満足気に見やり、遼香の方に向き直る。 以蔵は笑えてきた。 「おい遼、お前そんなさしで今までやってたのかよ」 「他にはかるもんが、何もないんで」 以蔵と出会い、早2年。 数々の『仕事』をこなしてきた。 以蔵に出会う前から考えると、罪のない人をも数え切れないほど殺してきた。 それでも、遼香はそのたびに『理由』をつけていた。 「まあ、そうでもしなきゃあたしは見境のない人斬りになる」 「分かってんじゃねーか」 以蔵は見境なく人を殺せる人斬りだ。 それを遼香は知っているし、もちろん以蔵自身も分かっている。 そうなってほしくない、と以前彼から言われた事がある。 「まあ1人ならあたしがいなくても余裕でしょうし、高見の見物決めこみますよ」 .
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