‡吉良と羽鳥と月乃‡

2/6
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「お前なんか…お前なんか大ッッ嫌いや!!」 半泣き半ベソで何とも稚拙な悪態を吐いた僕の手には、複数枚の紙切れが握られていた。 「嫌いで結構。てめぇに好かれる気などノミ程にも無いし」 呼吸荒く激昂する僕を冷徹な瞳で見据える水色頭の少年の手には、一目瞭然で高価な品と窺い知れる数々の魔法具が握られていた。 そう。僕はそれが許せない。 「羽鳥!お前ええ加減にせえ!人が溜め込んだへそくりの位置をまるで野性の如き嗅覚で探り当てて己の欲の為に全て使い込むなんざ常識人のする事やないで!?」 叫んで僕は握っていた複数の紙切れ……皺くちゃになった領収書を、乱暴に床へ叩き付けた。 その紙一枚一枚に提示された額が尋常でない桁だという事などもう見たくもない。 認めたくもない。 「野性云々のくだりは咎め無しに聞き流してやるとして……大体へそくりなんていう女々しいモンをこの事務所内に置く方が間違ってんだよ吉良。 『盗ってくれ』と言っているようなモンだ」 「何でやねん!どういう思考を廻らせたらそういう解釈に辿り着くんじゃコラッ!」 「こういう思考」 「黙れ脳みそ腐敗野郎!!」 僕が今最高に頭を悩ませているのは、仕事を共に行う言わば相方の羽鳥・カザの散財だ。 いや、先程も言ったように奴は人のへそくりにまで手を出すのだから、散財というより既に盗難である。 「鳴呼…もう生きて行ける気がしない…。この横暴な悪魔に財産を全てむしゃぶり尽くされ、ただ干上がっていくだけの残酷な未来しか僕にはないのだろうか…」 「ああきっとそうだ。そうに違いない。だから今死ね。さあ死ね」 「ふざッけんなや存在公害ッ!羽鳥!!お前あのへそくりが何の為に貯めてあったか解ってんのかッ!?」 僕の放った問いを受けた羽鳥は、硬質な表情に微かな疑問符を浮かべて小首を傾げる。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!